末野 孝典(イスラーム世界論講座)
「遍在する聖者―イブラーヒーム・ニヤース―」
セネガルの首都ダカールの南東に位置するカオラクには、かつてひとりの有名なイスラームの聖者がいた。彼の名は、イブラーヒーム・ニヤース。町の至るところに、彼の絵は描かれている。或る日、私が朝食を食べに出かけると、散髪屋さんに声をかけられた。私は面倒なことに巻き込まれたと内心思い、止めた足を動かそうとした。その矢先、目の前の壁に彼がいた。そう、ニヤースである。聖者は時として祈願者に様々な利益をもたらす。子宝成就、交通安全、息災延命など。おそらく散髪屋さんは商売繁盛を願い、ニヤースはこの場に私を届けたのだろう。日本で商売の神様として知られる恵比須様とどことなく似ていると思うと、私はクスっと笑ってしまった。今日もニヤースは祈りを捧げる者を見守っている。
【「アジア・アフリカ地域研究情報マガジン」第168号(2017年6月)第133回「メルマガ写真館」より引用】