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【8.本講座が目指すもの】 本講座のスーフィズム、タリーカ研究は、このような考えに基づき、次のような特徴を持っています。 第一に、現に存在する「イスラーム世界」を理解するためには、普遍的な価値・理念としてのイスラーム思想の理解が不可欠だと考えます。イスラーム世界は、ある意味ではイスラーム思想の現出として理解されうるからです。 その思想の中核を形成するものとして、スーフィズムを研究します。もちろん、神学や哲学、法学など、隣接の諸学もふまえる必要があります。現地で見聞する現象の皮相的理解にとどまらず、その背後にひそむ思想にまで遡って探究することが求められているのです。 しかし他方、思想の殻の中に閉じこもることは潔しとしません。今までの思想研究は、ややもすると他の学問分野と交流することに消極的な側面を持っていました。もちろん、思想を共時的に語り、分析することや、形而上学的な思想間の比較・総合を試みることは、それ自体意味のある知的営みであり、大きな成果も生みだしてきていることを否定するものではありません。 しかし、スーフィズムに関していえば、このような研究方法で達成されてきた成果と比べても、学際的・学融合的なアプローチをとることで期待される成果は、何ら遜色がないばかりか、より豊穣なものになることが期待されます。私たちの研究対象は、知識人の形而上学、隠者の神秘的体験、詩人や音楽家の芸術的表現だけでなく、スーフィズム・タリーカの担っていた政治的・経済的役割、それに基づく民衆たちのネットワーク、といったものにまで広がるべきだからです。 したがって、私たちは地域的環境や時代背景をふまえて考察するためにも、歴史学や人類学とクロスオーバーした、新しい形の思想研究を目指します。本講座のタリーカ研究は、そのバックボーンとなるスーフィー思想を、歴史文献やフィールドから立ち現れてくるディーテールと統合的に理解しようとする形で進めていきたいと思っています。 理念と動態、思想と生活の現場が切り結ぶ場としてのイスラーム世界。それを考察するためのきわめて魅力的な分野が、スーフィズム、タリーカ研究なのです。 (了) |